この記事の要点(30秒でわかる)
- 抗うつ薬の使用と体重増加には、大規模な研究で統計的な関連が報告されています。気のせいでも、意志の問題でもありません
- ただし薬によって差があります。18万人以上を追跡した研究では、6か月後の体重変化に薬剤間で差が出ています
- 抗うつ薬だけが特別に太るわけではありません。抗精神病薬・気分安定薬のほうが割合は高いという報告があります
- 自己判断で薬をやめないでください。中断は再発や離脱症状のリスクがあり、体重より優先すべき問題です
- マンジャロは体重には働きかけますが、抗うつ薬の副作用そのものを打ち消す薬ではありません。精神科の主治医と当院の医師の両方が把握したうえでの判断が必要です
「薬を飲み始めてから体重が増えた」「食事も運動も変えていないのに戻らない」————こう感じている方に、まずお伝えしたいことがあります。それはあなたの努力不足ではない可能性が高い、ということです。ここでは、分かっていることと分かっていないことを整理したうえで、どこから相談すればよいかをご説明します。
まず結論|抗うつ薬と体重増加には統計的な関連が報告されています
英国の診療データベースを用いた研究では、約29万人を最長10年追跡し、抗うつ薬を処方された人とそうでない人で体重の変化が比較されました。
- 体重が5%以上増える出来事の発生率は、処方なし群で年8.1件/100人年、処方あり群で11.2件/100人年
- 年齢・性別・併用薬などを調整した率比は1.21(95%信頼区間 1.19〜1.22)
- このリスク上昇は少なくとも6年間続いていました
- もともと標準体重だった人が過体重・肥満に移行する率比は1.29
ただし、この研究の著者自身が「関連は因果関係とは限らない」と明記しています。うつ状態そのものが食行動を変えることもあり、薬だけが原因と決めつけることはできません。それでも、「薬を飲み始めてから増えた」という体感には、データ上の裏づけがあるとはいえます。
薬によって差があります
米国の8つの医療システムから18万3,118人のデータを解析した研究では、セルトラリン(ジェイゾロフト)を基準として、開始6か月後の体重変化が薬剤ごとに比較されています。
| 薬剤(一般名) | 国内の主な商品名 | 体重差 |
|---|---|---|
| エスシタロプラム | レクサプロ | +0.41kg |
| パロキセチン | パキシル | +0.37kg |
| デュロキセチン | サインバルタ | +0.34kg |
| ベンラファキシン | イフェクサー | +0.17kg |
| シタロプラム | 国内未承認 | +0.12kg |
| フルオキセチン | 国内未承認 | −0.07kg(差なし) |
| ブプロピオン | 国内未承認 | −0.22kg |
エスシタロプラム・パロキセチン・デュロキセチンでは、体重が5%以上増えるリスクが10〜15%高いという結果でした。
ここで注意していただきたいことがあります。この研究で体重に有利だったブプロピオンとフルオキセチンは、いずれも日本では抗うつ薬として承認されていません。海外の情報をそのまま「この薬に変えてもらえばいい」と受け取ることはできません。
また、この研究にはミルタザピン(リフレックス/レメロン)が含まれていません。ミルタザピンは抗ヒスタミン作用による食欲亢進が知られており、食欲が落ちている方にはその作用を期待して使われることもあります。体重の観点だけで良し悪しを判断できる薬ではありません。
抗うつ薬だけが太るわけではありません
2026年に報告された解析では、5つの臨床試験の参加者4,945人を統一した枠組みで比較しています。7%以上の体重増加が起きた割合は次の通りでした。
- 抗精神病薬:41%
- 気分安定薬:29%
- 抗うつ薬:16%
複数のお薬を併用されている方は、どの薬が影響しているかを自分で切り分けるのは困難です。これは主治医と一緒に整理していく領域です。
なぜ増えるのか|考えられる3つの経路
① 食欲そのものが増える
ヒスタミンやセロトニンの受容体への作用を通じて、食欲が増したり満腹を感じにくくなったりすることがあります。「意志で我慢する」以前の、体の側の変化です。
② 活動量が落ちる
眠気や倦怠感で動く量が減れば、同じ食事量でも収支は変わります。うつ症状そのものによる活動量の低下も重なります。
③ 回復にともなって食事量が戻る
これは見落とされがちですが、大切な視点です。うつ状態では食べられなくなって体重が落ちていることがあり、治療で元気が戻った結果、食事量が回復して体重が戻るという経過があります。この場合の増加は、回復のあらわれでもあります。
いちばん大事なこと|自己判断で薬をやめないでください
体重が気になっても、抗うつ薬を自分の判断で減らしたり中止したりすることは避けてください。再発のリスクがあるほか、急な中止では中断症候群(めまい・しびれ・不眠・不安の増悪など)が起こることがあります。体重よりも、心の状態の安定が優先されます。
体重増加が気になる場合、まず相談すべき相手は処方している主治医です。薬の変更、用量の調整、増えやすい時期の見きわめなど、主治医だからできる選択肢があります。「太るのが嫌なので薬をやめたい」ではなく、「体重が◯kg増えて気になっている」と事実で伝えると話が進みやすくなります。
マンジャロにできること・できないこと
マンジャロ(一般名:チルゼパチド)は、食欲や胃の動きに働きかけることで、食事量が自然に減りやすくなる薬です。「薬で増えた体重だから効かない」ということはありません。体重に対する作用そのものは、原因が何であっても働きます。
一方で、できないことも明確です。
- 抗うつ薬の副作用を打ち消す薬ではありません。食欲亢進の原因そのものに作用するわけではありません
- うつ症状を改善する薬ではありません。精神科の治療の代わりにはなりません
- 抗うつ薬を減らせるようになる薬ではありません。減薬の可否は主治医が判断する領域です
体重が減ることで気分や自己評価が上向く方はいらっしゃいますが、それを目的とした治療ではありません。心の症状が主な悩みである場合は、まず精神科・心療内科でのご相談をおすすめします。
併用について、添付文書で分かっていること
マンジャロの添付文書には、精神疾患やうつ病を理由とした禁忌の記載はありません。抗うつ薬が併用注意として名指しされてもいません。
ただし、併用注意として次の記載があります。マンジャロには胃の内容物が出ていくのを遅らせる作用があるためです。
- 経口避妊薬:特に投与開始初期や増量直後は、効果を減弱させるおそれがある
- 治療域の狭い経口薬(ワルファリンなど):吸収の時間が変わる可能性があり、慎重な観察が必要
※参考:PMDA くすり情報(マンジャロ皮下注アテオス 全6規格・一般の方向け)/マンジャロ皮下注アテオス インタビューフォーム
抗うつ薬は「治療域の狭い薬」には通常あてはまりません。とはいえ、飲み薬の吸収のされ方に影響しうる薬であることに変わりはありません。服用中のお薬は、必ず正確にお申し出ください。精神科の主治医にも、マンジャロを使うことをお伝えください。どちらか一方だけが知っている状態が、いちばん危険です。
気分の落ち込みとの関係について報告されていること
GLP-1受容体作動薬と自殺念慮・自傷行為との関連が国際的に議論された時期がありました。これを受けて欧州医薬品庁(EMA)の医薬品安全性監視委員会は、2024年4月、電子カルテデータを用いた複数の検討をふまえ「因果関係を示す根拠は認められない」と結論しています。
※参考:EMA finds no link between GLP-1 receptor agonists and suicidal thoughts(The Pharmaceutical Journal)
一方で、チルゼパチドの臨床試験では抑うつ気分などの事象がごく少数報告されており、マンジャロの副作用として添付文書に記載されている精神神経系の項目は「味覚不全」「異常感覚」です。「絶対に気分に影響しない」と言い切れる段階ではありません。使用中に気分の変化を感じた場合は、我慢せずご連絡ください。
オンライン診療でお受けできない場合があります
次のような場合、当院ではお断りする、あるいは主治医への確認をお願いすることがあります。安全のための判断ですので、ご理解ください。
- 精神科・心療内科の治療中で、症状が不安定な時期にある場合
- 摂食障害の既往があるか、その疑いがある場合
- 主治医にマンジャロの使用を伝えられないとお考えの場合
- 服用中のお薬の全体像が確認できない場合
- 自傷や希死念慮がある場合(この場合は減量よりも、精神科での対応が優先されます)
よくあるご質問
抗うつ薬で太るのは本当ですか?
約29万人を10年追跡した研究で、抗うつ薬を処方された人は5%以上の体重増加が起きる率が約1.21倍という結果が報告されています。ただし著者自身が「因果関係とは限らない」としており、うつ状態そのものの影響も含まれます。増え方には個人差があります。
太りにくい抗うつ薬に変えてもらえますか?
薬の変更は処方している主治医の判断です。当院から他院の処方に指示を出すことはできません。なお、海外の研究で体重に有利とされたブプロピオン・フルオキセチンは、いずれも日本では抗うつ薬として承認されていません。
抗うつ薬とマンジャロは併用できますか?
添付文書に抗うつ薬との併用禁忌はありません。ただしマンジャロには胃内容物の排出を遅らせる作用があり、飲み薬の吸収に影響しうるため、服用中のお薬はすべてお申し出ください。精神科の主治医にもマンジャロの使用をお伝えください。診察のうえ、適切でないと判断した場合は処方できません。
抗うつ薬をやめれば体重は戻りますか?
戻る方もいますが、確実ではありません。それ以上に、自己判断での中止は再発や中断症候群のリスクがあり、おすすめできません。体重が気になる場合も、まず主治医にご相談ください。
マンジャロを使えば抗うつ薬を減らせますか?
いいえ。マンジャロは体重に働きかける薬であり、うつの治療薬ではありません。減薬の可否は精神科の主治医が症状をみて判断する領域です。
主治医に知られたくないのですが、処方してもらえますか?
申し訳ありませんが、その前提ではお受けできません。飲み薬の吸収に影響しうる薬であり、体調の変化があったときに主治医が判断できなくなります。お伝えいただくことが、ご自身を守ることにつながります。
診察では何を伝えればよいですか?
服用中のお薬の名前と量、いつから飲んでいるか、体重が増え始めた時期、現在の症状の安定度、通院の頻度をお伝えください。お薬手帳の写真をご用意いただけると確実です。
ご検討の前に必ずお読みください
- マンジャロ(チルゼパチド)は、国内では2型糖尿病の治療薬として承認されている医薬品です。体重管理を目的とした使用は、承認された効能・効果ではない適応外使用にあたります。
- 体重管理目的の処方は自由診療(保険適用外)で、全額自己負担となります。
- 当院では国内正規流通品を、提携薬局を通じてお届けします。
- 本ページは、抗うつ薬の変更・減量・中止を勧めるものではありません。精神科のお薬に関する判断は、処方している主治医の領域です。
- 吐き気・便秘・下痢などの消化器症状のほか、まれに急性膵炎・胆のう関連症状などの重大な副作用のリスクがあります。体調に異変を感じた場合は速やかにご相談ください。
- 効果の程度や出方には個人差があり、結果を保証するものではありません。食事・運動などの生活習慣との併用が前提です。
- 諸外国では、体重管理を目的とした同成分(チルゼパチド)の医薬品が承認されています。
- オンライン診療の結果、医師が適切でないと判断した場合は処方できないことがあります。
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「太ったのは自分のせい」と思わなくて大丈夫です
治療を続けてきた方ほど、体重の変化を自分の責任だと感じてしまいがちです。ですが、ここまで見てきた通り、それはデータの上でも説明のつく変化です。まずは主治医に事実をお伝えください。そのうえで体重について選択肢を知りたい場合は、当院でもご相談いただけます。無理な勧誘はいたしません。
参考文献
- Gafoor R, Booth HP, Gulliford MC. Antidepressant utilisation and incidence of weight gain during 10 years’ follow-up: population based cohort study. BMJ. 2018;361:k1951.(PubMed)
- Petimar J, et al. Medication-Induced Weight Change Across Common Antidepressant Treatments: A Target Trial Emulation Study. Ann Intern Med. 2024.(PubMed)
- Serretti A, et al. Transdiagnostic medication-associated weight gain across five effectiveness trials: a harmonized longitudinal cohort analysis. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry. 2026.(PubMed)
- マンジャロ皮下注アテオス 添付文書・インタビューフォーム(日本イーライリリー株式会社)/PMDA くすり情報(マンジャロ皮下注アテオス 全6規格・一般の方向け)
- EMA finds no link between GLP-1 receptor agonists and suicidal thoughts. The Pharmaceutical Journal. 2024.

